第14章 高専
五条の言葉は、知っていた夜蛾の罪でもあった。
片手で頭を押さえて、「そうだ」と重い息を吐く。
「だが、それならどうする気だ?」
「やることならいくらでもあるでしょ。補助監督や窓だっていい」
「まだ学生なのに学生生活は送らせないのか?」
「何言ってんの。なまえは僕と同級生だよ?」
もうとっくに大人だと、先程彼女が未成年だと言った口で惚けてみせる。相変わらず都合よく事実をすり替える五条に、夜蛾は本気で頭痛を感じた。
だが、五条の意図したいことは分かる。
分かった、補助監督か窓あたりで彼女の椅子を作ろうと頷き。徐に五条の顔を見て、「意外だな」と言葉が漏れた。
「何が?」
「お前なら、若人から青春を取り上げることはしないと言って、逆に無理にでもなまえを編入させると思ったんだが」
それほどに、彼は眩しく美しい青い春に執着していた。そう、執着していたのだ。彼自身が過ごした、青い春に。同期の仲間達と過ごした、あの日々に。
「…なまえの青春は、俺達と過ごした日々だけで十分なんだよ」
そこに、他の青い春はいらない。
元教え子の、深い執着を垣間見て、夜蛾は、そういえば二人は恋人同士だったかと、11年越しの勘違いを復活させる。
「…なら、新しい彼女の戸籍と、仕事の席、あとは寮の一室を準備しよう」
「あ、寮は大丈夫。なまえは僕んとこで暮らすから」
軽く放られた、突然の爆弾発言に、夜蛾は再び固まった。