第14章 高専
なまえが部屋の外へと出て行ったのを確認してから、夜蛾は改めて黒い布で目を隠した五条悟と視線を合わせた。
「それで、わざわざあいつを部屋から出してまで言いたいことは何だ」
なまえが生きていたことは、まだ多くの謎が残るところだが、嬉しい驚きであることは確かだった。術師としても勿論だが、何より夜蛾の個人的感情としてもだ。
時を超えて再び生きて現れた彼女をサポートすることには何の迷いも無かった。
その話を途中で遮った五条はいったいどういうつもりなのか。まずは話を聞こうと体制を整える夜蛾に対し、五条も普段纏っている軽薄な雰囲気を消していた。
「単刀直入に言うけど、なまえを高専に編入はさせないし、呪術師として働かせる気もない」
予想していなかった言葉に、夜蛾はサングラスの奥にある目を見開いた。そしてすぐに、苦言を呈するように眉間に皺を寄せる。
「…悟、それはお前が決めることじゃないだろう」
「僕が決めることだよ。なまえは今、存在しない人間だ。戸籍も身寄りもない。それなら、最初に彼女を保護した僕が、未成年である彼女の保護者みたいなもんでしょ」
どこか不遜とも思える五条の態度に、夜蛾は更に眉間の皺を深くした。
「保護者なら、彼女の意思を聞いて尊重することも大切だろう」
「そしたらなまえは死ぬ。今度こそ」
死ぬという言葉を自分で吐いて、それに彼は少し苛立った様子だった。
「なまえはさ、イカれてないんだろ?」
それは、彼が学生の時は気づけなかった事実。そして、多くのイカれていない人間を見てきて、気付いたこと。
なまえ自身すら、その事実から目を背けて何食わぬ顔で彼等と共に過ごしてきたのだ。誰も気付かなくて当然だった。だがそれは、確実に彼女の身を、心を削っていた。
再び目の前に現れた、やつれた彼女の姿を見て、五条は確信した。やはり、彼女はイカれていなかった。本来なら、術師を続けられる様な人間じゃないのだ。
だがきっと、選択肢を与えれば、彼女は呪術師としての道を選ぶだろう。
彼女にとって、最早帰るべき場所は、苦しんだ非術師としての道ではなく、自分の体の異変に目を背けてでも大事にしたかった、術師としての場所(高専)なのだから。