第14章 高専
「悟、いいお嫁さんになれるよ」
「なまえがもらってくれんの?」
「うーん、確かにこの食事は魅力的…。ていうか、そういえば悟って結婚してないの?」
あれから11年ということは、目の前の彼は童顔であまりそうは見えないが、三十路近いということだ。
未だ10代後半の感覚であるなまえからしても、結婚していてもおかしくはない年だと今更ながらに思って。
だが恐らく、基本的に生活感のない部屋や、一人分しか用意のなかった洗面具(食器は複数あるようだが、恐らく友人などが泊まりにきた用だろう)から見るに、恐らく彼は独り身なのだろうとは感じていた。
だが、自分で聞いておいて、なまえは言った瞬間にしまったと思った。確か、ずいぶん前に一度、彼の気持ちを聞いていたにも関わらず、自分のことを好きなのかどうか聞いて、少々彼を不機嫌にさせたことがあったからだ。にも関わらず、結婚してるの?なんて、私はなんて嫌な女なんだ!と手で口を塞ぎたくなった。だが、
「このグッドルキングガイが誰か一人のものになっちゃ世界中の人が悲しむでしょ」
特に表情を変えるでもなく、軽い調子で返した彼に、ああ、そうだった、と思う。
あれからもう何年経っていると思ってるんだろう。もう、あの時と同じじゃない。彼はもう大人で、その心が学生の時と同じである訳がない。新しい友人もできただろうし、様々な恋愛をしてきたのかもしれない。
彼にとって、私は思い出の一つで。もうその心に私がいないのであれば、不機嫌になる理由なんてないのだ。なぜ当たり前に、彼が自分を好いていてくれていると思ったのか。
当然の事実に気付いて、なのに、ショックを受けている自分が、そこにいた。
(…私、好きなんだ…)
例え、年が離れてしまったとしても。
五条にとっては11年前のことでも、なまえにとっては、つい昨日までのことなのだ。気持ちが、簡単に切り替わるわけがない。
「なまえ?」
突然黙った彼女に、五条が訝しげに首を傾げる。
いっそ、彼がお爺ちゃんになるくらい時が経っていれば、諦めもついただろうか。
いや、やはりこれ以上仲間達に置いていかれるのは嫌だ。
「あ、ご飯美味しすぎてボーッとしてた」
笑って、箸を進めるなまえを、五条は青い瞳で見つめ。それから、自身も目の前の食事を食べ始めた。