第14章 高専
(相手は悟、悟だから!気にしない!)
悟だからこそ実は気になってしまうのだが、そこに彼女は気付かない。切り替えようと、促されるままにテーブルへ向かえば、そこに並べられた朝食に大きく目を見開く。焼き魚にほうれん草のおひたし、茄子の味噌汁に納豆と温泉卵。和食が大好きな彼女の黄金レパートリーだ。
「食おうぜ」となまえの正面に座る五条へ、視線を向ける。ここまで彼女の好みのメニューが並んでいるのは、決して偶然ではないだろう。そして、それが出来る目の前の彼は、やはりなまえのよく知る、共に高専時代を過ごしていた五条悟で間違いないのだと改めて実感する。
朝食を作ってくれたお礼の意味を込めて、「ありがとう」と声をかければ、「ん」と彼はなんでも無いように頷いた。
ただ問題は…と。自分好みの朝食を前に、なまえは「いただきます」と手を合わせる。
(…食べれる、かな)
ここ暫く、食欲の落ちる日が続いていた。食べ物が、ほとんど喉を通らない。無理をして食べても、嘔吐してしまうこともあり。
寮の食事はバイキング制であることや、任務の関係で仲間と食事をとる機会も減ったことで、より食の重要性が彼女の中で薄くなっていた。飲み物やカロリーメイトをひと齧りして食事を終えることも多かった。
昨夜も、五条が夕飯の提案をしてくれたが、疲労を理由に断っている。
だが、食べなければ体に良くないことは分かっているし、せっかく五条が作ってくれたのだと思えば、食べなければという気持ちにもなる。そして幸いにも、久しぶりの十分な睡眠と、目の前に並ぶ、できたての彼女の大好きなメニューは、久しく忘れていたなまえの食欲をくすぐった。
右手に箸を握って、左手で味噌汁の入ったお椀を持つ。そっと口元に近づけて、一口啜った彼女は、傍目にも分かるぐらい表情をパァッと明るくした。
(めっちゃ美味しいっ)
優しい素朴な味は、胃にも優しく。たくさんは無理だが、これなら食べられそうだと、茄子も一口齧る。
そこでふと、悟がじっと視線をこちらへ向けていたことに気付き、お椀を口元から外した。