第14章 高専
色々あった彼女は、本当に寝られるのかと多少心配していたが、心身共に疲労していたのもあったのか、ベッドに寝転んで意識は早々に旅立った。
起きて気付いたが、ここ最近彼女を悩ませていた頭痛も、いつもよりやわらいでいる。
低反発の弾力あるマットレスの感触を手で確かめながら、大きく欠伸をする。
大きなベッドを這うようにして端まで行き、両足を床につければ、昨日五条から寝巻き代わりに借りたTシャツがちょうどワンピースのように裾が膝上まで垂れ下がった。分かってはいたが、こうして見ると、改めて彼の身長の高さを思い知る。
実は自分が着ているTシャツが、彼女が想像しているよりも、値段の桁が一桁多いことを知らない彼女は、(この生地いいわー)なんて皺になったTシャツをひらひらさせながら歩き出す。
昨日過ごしたリビングからはすでに人の気配がして、五条がもう起きているのだと理解したまま、リビングのドアを押せば、あまり生活感のない見た目とは裏腹に、食欲をくすぐる匂いが鼻に届いて、なまえは目を細めた。
覗き込むようにリビングへと足を踏み入れれば、キッチンに立つ大きな人影が目に入った。白銀の髪がふわふわと揺れていて、今になって少し緊張したのか、一瞬鼓動が大きくなる。
それを誤魔化すように、「おはよう」と声をかければ、空よりも蒼い瞳がなまえを見た。
「はよ、なまえ。朝飯できてるよー」
「…悟が作ってくれたの?」
「僕以外にいないでしょー?ほら、僕って何でもできちゃう人だから」
口元に軽薄な笑を浮かべる五条に、突っ込もうかと思ったが、よく考えたら、確かに奴はなんでも出来るのだと気付いて、なまえはつい下唇を突き出す。そんな彼女に五条は口元の笑を深くして、彼女に歩み寄ると、身長差から小柄なその姿を見下ろした。
一方で、見下ろされたなまえはといえば、急に自分の寝起きのままである姿が気になった。顔も洗っていないし、寝癖も直していない。普段は特に気にならなかったそれが突然気になったのは、普段とは違う五条の姿のせいだろう。伸びた背も、少々大人びてしまった顔つきも、やはりまだ慣れない。そわそわと体を揺らすなまえに小さく首を傾げながらも、「ほら、早く座りなって」と五条はテーブルへと彼女を促す。