第13章 再会
どれだけそうしていただろうか。
五条が動かないから、なまえもただそのままでいた。五条の頭を抱えている右手を、少しだけ動かして、白銀の髪に触れる。柔らかい感触は、まるで猫の毛みたいで、少しだけ目を細めた。
(そっか…私死んだんだ…)
ようやく、それが、なまえの心に浮かんだ。
自分の死の、実感。そんなものは無かった。言葉としてだけ、理解していたのかもしれない。
ただ、五条が言うから。真実なんだろうと、思った。
背中に回された彼の腕は、未だそこから動くことはない。
「…どうやって死んだのかな…」
これは、ただの独り言だった。悟に聞こうとした訳ではない。ただ、ぽつりと漏れた独白。
その言葉に、彼の腕の力がギュッと強くなった気がした。
助けに来てくれたと言っていた。
彼の前で、死んでしまったのだろうか。
現実味のない己の死よりも、死を見せつけられた友の心の方が、よほどリアルになまえの心に響いた。
くしゃりと、柔らかい髪に指を差し入れる様にして、彼の頭を撫でる。
こうしていると、とても自分より11年も歳を重ねた大人だとは思えなくて。本当に11年経ってしまったんだろうかと、考え。
ふと、彼女は気付く。
「…悟」
問うように呼びかければ、ようやく、腕の中にいた彼が動いた。のろのろと顔を上げ、「なに?」と聞く彼の空を切り取った瞳の周りが、少し赤い。
ついまじまじと見れば、「見すぎ」と、少しだけバツが悪そうに立ち上がり、テレビの近くに置いてあったサングラスを手に取り、目を隠す様につけた。
サングラスがまん丸じゃない、となまえはまた自分の知る五条とは違う部分を見つけてしまう。
「あのさ、高専の寮にあった、私の部屋って…」
「今もあると思う?」
「ワンチャンあるかな、って」
「ないでーす。4年の頃には片付けられたな」
「…因みに中の荷物は?」
「基本処分。DVDは僕が持ってる」
「あ、まだ観てないのあったからうれしい」