第13章 再会
言いながら、チラリと視線を未だ掴まれている腕へと向ける。離してほしいという意味だったが、通じなかったのか、そもそも離す気がないのか。
何かを考えるように口を閉じたその人の、左手が不意に、なまえの頬にそっと触れた。
びくりと、あからさまになまえは反応して、肩を揺らす。
「君は…」
紡がれようとした言葉は、途中で何かに気づいた様に止まった。青い瞳が、何もかもを見透かす様で、居心地悪そうになまえは視線を泳がせる。
「…ちょっと場所を変えようか」
瞬間、廃ビルにいたはずのなまえは、高層マンションの入り口に立っていた。デジャブを感じる景色の変化に、彼女は目を白黒させる。
先ほどと同じなのは、なまえの腕を掴んだままの、目の前の人物の存在だけだ。
驚く彼女を置き去りに、腕を引かれてそのまま流される様にマンションの入り口へと足を踏み入れる。
「え、ちょ、あの、ここ、どこ…?」
「僕の家だから大丈夫」
「へ…?」
何が大丈夫なのか。まさかこれは誘拐なのか。混乱しながらも、本気で腕を振り払えなかったのは、今ほど目の前の景色が変わった、その力を、知っていたからだ。
瞬間移動。
五条悟が、当面の課題だと話していた力だ。
無下限呪術が頭をよぎるが、さすがにその力を現在使うことができるのは、五条悟ただ一人ということは知っている。全く異なる術式の力、と思うには、彼の顔は本当によく似ていて。
考えたところで、また頭がずきりと痛み、なまえは眉間に皺を寄せた。
「大丈夫?」
目の前に、悟に良く似た顔が突然出てきて、彼女は危うく仰け反りそうになる。
腕を引いていたと思ったら、いつの間にか屈んでなまえと目線を合わせていたのか。青い真っ直ぐな目に見られることが、慣れている様で、慣れなくて。
「どっか痛い?」
「あ、の………ちょっと、頭が…」
こちらを気遣う言葉に、誤魔化すことが、上手くできない。問われるがままに答えれば、少し考えるように彼は口を閉じ。
「うわっ!?」
掴まれていた腕が離されたと思ったと同時に、足が空を蹴り、浮遊感になまえは思わず声を上げた。ぐらりと視界が揺れたせいで、また頭に痛みが響き、グッと目を閉じる。