第13章 再会
お姫様抱っこされているのだと気付いたのは、閉じた目を開けてからだ。
至近距離にある綺麗な顔に、体が固まる。
「あ、ああ、あの?」
「うん、ちょっと待ってね」
聞く気がないぞ、となまえが焦る間に、長い足のコンパスは、あっという間にエレベーターに乗り込んで、気付けば、一つの部屋の前に辿り着き。そのドアが開いたところで、これは本格的にやばいのではないかとなまえは思った。
彼女の気の許せる仲間の顔に似ていることと、こちらを気遣う様な態度に、つい流されてしまいそうになるが、今自分は知らない人の部屋に連れ込まれているという事実に、改めて気付いたのだ。
「お、降ろしてくださいっ」
抵抗しなければ!とようやく彼女が声を上げたところで。
「はい」
と。すんなり、丁寧に降ろされたそこは、ふかふかのソファーの上だった。弾力がありつつも、ふわりと沈み込む感触。これは高いソファーに違いない!と相変わらず危機感が欠如している彼女の正面。ガラス張りのテーブルの上に、コトリと白く上品な形をしたカップが置かれた。
「それ飲んで、少しだけ待ってて」
ポンとなまえの頭を軽く撫で、足早に部屋を出て行くその人を。まだ状況を上手く把握できない彼女は目だけで見送り。それから、目の前に置かれたカップを見た。ふわりと白い湯気がでているそれは、甘い匂いがする。
「ココア…」
お茶やコーヒーではなく、ココア。彼女が好きなそれが出されたのは、偶然なのだろうか。
よく考えれば、出会った時に自分の名前を呼んでいたことを思い出す。
「(私のこと、知ってる感じ…だよね?)」
温かいココアを啜れば、頭の痛みも少し和らいだ気がして。
トンと、カップをテーブルに置いた。
「いや、ココア飲んでちゃダメじゃない!?」
今更気づいて、周りを見渡す。マンションに入った時は、混乱していてあまり余裕が無かったが、セキュリティもしっかりした高級そうなマンションだ。床も大理石のように見え、リビングであろうここは、とても広々としている。
ただ、もし自分を閉じ込めることが目的ならば、こんな風に一人にはしないだろう。今なら逃げ放題なのだから。
ふと見渡していた視線が、止まる。
物の少ないその部屋の、テレビの横に置かれた、ぬいぐるみ。シンプルな家具の並ぶそこで、あきらかに異質なそれに、見覚えがあった。