第13章 再会
特に深く考えた訳じゃない。話の流れで、何の気はなしに、聞いただけだった。
だが、瞬間。まだ五条と会って間もない釘崎ですら、担任である彼の雰囲気が、変わったことに気付いた。
目隠しをしている五条の表情は分からないが、ピリッとした緊張感に、虎杖は知らず、唾を飲み込んでいた。
「…悠仁、その名前どこで聞いた?」
「いや、聞いたっていうか…さっき、呪霊を祓った廃ビルに、高専の先輩がいて、その人が、そう名乗ってたから…」
「私も会ったわよ。黒髪の、女の先輩。任務だって言ってたけど」
二人の話を聞いた五条は、考える様子もなく、伏黒を見た。
「恵、ちょっと二人を頼んだ。支払いは僕がするから、先に店に行ってて」
「は?ちょっと、五条せんせ、」
抗議の声を上げる間もなく、その場から五条が消えた。まさかの展開に、一瞬時が止まるその場。我に返ったのは、釘崎が一番早かった。
「えっ!?ちょっと今のどういうこと!?なんなの?何者なの!?みょうじなまえって!」
「…いねぇよ」
「は?」
呟いた伏黒に、釘崎と虎杖が視線を向ける。
視線を受けた伏黒は、どこか困った様に、右手で頬をかいた。
「だから、いないって。そんな名前の先輩。高専にはいない」
瞬間、ぞくりと寒気がして、釘崎と虎杖の二人は、両腕を組んで体を震わせた。怪しいとは思ったが、もちろん本当に幽霊だなんて考えていた訳ではない。冗談のつもりで、少し盛った話が、急に現実味を帯びた気がして、二人は静かに顔を見合わせる。
まさかー…と。
「…あ、いや。でもどこかでその名前、聞いたことあるな…」
「ほ、ほらほら〜!驚かせないでよね!」
「ほ、ほほ、ほんとにな!ビビらせんなよ伏黒!」
「虎杖あんたビビってたの?男のくせに情けな〜」
「はぁ!?オマエだってビビってただろ!?」
思い出す様に眉を寄せる伏黒に、途端、あからさまにホッとした二人は安心したように喋り出す。だが、考えていた伏黒は、思い出して、その事実に声のトーンが落ちる。
「思い出した…」
「けっきょく誰なんだよ?」
「休学中の人とか?」
二人を見て、伏黒は、一瞬口籠もり。気まずげに、口を開いた。
「…高専の、近くにある墓に、書いてあった名前だ。…確か」
告げられた言葉に。
虎杖と釘崎の二人は、盛大に顔を引き攣らせたのだった。