第12章 幕間
「あいつはまたこないってさ」
あいつ、と硝子が言ったのは、かつて同級生であった五条悟のことだ。傍目からもバレバレというよりかは、隠す気もなくなまえを愛していた五条は、一度も墓参りに来たことがなかった。
曰く、そこになまえはいないからだと。
代わりに彼は、なまえの最後の任務先であった廃屋を買い取り、そのまま保管していた。そして、墓参りにではなく、毎年そこへと出掛けているのを、硝子は知っていた。
呆れた執着心と、諦めの悪さだと、硝子はまるで目の前になまえがいるように話す。
恐らく、なまえがいたなら顔を赤くしながらそれを聞いていただろう。結局、両想いでありながら、くっつかなかった2人。聞けば、呆れる様な理由で、当時の硝子は、笑いながら散々いじった。だが、硝子は五条よりも断然なまえの味方だったから、彼女の気持ちが整うまで、待てばいいと思った。思い出す過去の記憶に、硝子は口元に笑みを描いて。
ふと、一度口を閉じ、そして、開いた。
「私、医者になったよ」
四月から、高専の医師として働くことを、報告する。なまえならきっと、おめでとう!と満面の笑顔で祝福してくれただろう。
仲間が傷つく度に、ひどく心を痛めていたなまえ。それが、少しでも少なくなるといい。
空になったコップを片付けて。硝子はゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、なまえ。またね」
去っていく硝子の髪を、冷たい風が撫でていった。