第12章 幕間
家入硝子
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呪術高専からいくらも離れていない墓地。
その間を一人、家入硝子は歩いていた。いつもの白衣ではなく、黒の礼服を纏い、右手には花束。
硝子の歩みに合わせて、学生時代と比べて長く伸びた髪が風に流れる。
淀みなく歩いていた彼女の足は、手入れが行き届いた綺麗な墓石の前で止まった。その墓石には、硝子の親友の名前が刻まれていた。
「きたよ、なまえ」
静かな声は、誰もいないそこに響いた。
手に持っていた花を、手際良くカットして、元々生けてあった古い花と交換していく。
この墓は、みょうじなまえの親族が用意したものではなかった。本来の墓は、なまえの地元に存在している。
だが、なまえの亡き後。彼女が住んでいた場所は、彼女が気を落ち着けられる場所では無かったのだと分かった硝子は、なまえが何より笑顔で過ごした、高専の近くに、墓石を置くことを決めた。
「酒、持ってきたよ」
勧めても、二十歳になるまではダメだと頑なに拒んだ真面目ななまえ。生きていたなら、今頃は笑いながら酒を酌み交わしていただろう。
二つ用意したコップに注いで、その片方を持つ。キンと、コップ同士を軽くぶつけた。
ここに、彼女は眠っていない。彼女の地元にある墓にも。死体が残らなかったのだから。代わりに置いてあるのは、高専一年生の時に、硝子がなまえにクリスマスプレゼントで渡したブレスレットだ。