第12章 幕間
夏油傑
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「何か言い残すことはあるか?」
親友に問われて、真っ先に頭に浮かんだのは、高専で過ごした三年間。そして、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした、同級生の少女の顔だった。
私と悟みたいなクズとは違う、心優しい彼女に、酷く辛い思いをさせてしまった。呪詛師堕ちする私を、必死に止めようとする彼女を、振り払うしかなかった。
『私たちを、…高専の仲間を、捨てるの…?』
まさかこの言葉が、今のこの瞬間まで、自分を苦しめることになるとは、思いもしなかった。それだけ、自分もまた。当時の仲間を、大切に感じていたのだろう。
「なまえが死んだのは…私のせいかな」
それは、ずっと燻っていた。
彼女の死の知らせを聞いた時から。当時は、彼女を切り捨てた立場でありながら、動揺を隠しきれなかった。
自分が呪詛師になったことが、彼女を失わせる原因の一つになったのでは、と。初めてそこで、自分が選んだ道を、立ち止まりそうになった。だがもう。生き方は変えられない。
「ばーか。思い上がんなよ。オマエなんかがあいつの生死の理由になると思うな」
かつての親友は、そんな私を鼻で笑った。学生時代の時と、変わらぬ口調で。
「あいつの全部は、俺だけのもんだから」
不遜なのに、どこか寂しそうで。
そんな親友の側にいれないことが、どうしようも無くもどかしく感じた。
未だ彼女の死を引き摺っているのは、自分だけではない。本当に私達は似たもの同士だと、思わず笑って。
「…どうかな。先になまえに会いに行って、聞いてみるよ」
志半ばだったけれど。
親友に殺され、あちらでかつての友に会えるのならば。それも、悪くない。
思って、静かに目を閉じた。