第11章 絶望
その力に、一瞬焦ったが。
実際に戦い始めてみれば、なまえとの相性がよく、そこまで苦戦する相手では無かった。
焦った針の攻撃は、どうやら胴体にある顔の口からしか出せず、出す動作も分かりやすい。
蜘蛛型の呪霊らしく、おしりに当たる部分から糸も出すが、基本的に遠距離攻撃はなまえに避けてくれと言っている様なものだ。
ただ一つ。彼女が気になったのは、呪霊へと攻撃を入れるたびに、頭に響く頭痛だ。
ぐらりと、頭が揺れる様な錯覚さえある。なぜこんなにも…と考えて。
ー なまえお前…イカレてないな ー
ふと、思い出したのは、一年生の時。初めての実地訓練の後に、夜蛾に言われた一言だった。
関係ない、となまえは振り払う様に首を振る。
自分がイカレていないのは分かっている。だが、数をこなすことで、慣れてきたのだ。慣れて…
「(慣れて…きたの?)」
ふと抱いてしまった疑問は、なまえの頭の中を蝕んだ。毎年、体調を崩すのは、初夏から夏にかけて。そう、呪霊が増える時期だ。
特に今年は、祓う呪霊の数が多い。特に今年は、なまえの体調が悪くて。
「(違う、私は慣れたはずだ。何だって、慣れなんだ。だって、夏油だって…)」
呪霊を取り込むことに、慣れたと言っていたじゃないか。慣れなんだと。
そうして、彼はー…
本当に、慣れていたのかな
蜘蛛の呪霊が、針を飛ばす構えをする。避けようとしたなまえは、突如押し寄せた吐き気に、足がもつれて、うまく動かなかった。
シュンと、空気を切って飛ばされる鋭いそれ。
慌てて、術式を発動しようとして。
「(うそ…)」
術式が、発動しなかった。
まさか、と彼女は思う。黄昏時には、まだ早いはずだ。命取りになるからこそ、彼女は、いつだってそれだけは確認を怠らなかった。
瞬間。