第11章 絶望
グッと、力を込めて壁を押してみる。ぐにゃりと粘土の様に歪んだそこは、破れそうにない。
「閉じ込められた…」
地元住民には、お化け屋敷として知られる廃屋。そこに巣食う呪霊を祓うため、なまえは中に入り、一つ目の部屋のドアを開け、更にその部屋の中にあったドアを開けているうちに、気づいた。
無限に続く、部屋のループに。
今まで潜った部屋の数、大きさは、完全に外観から想定できる大きさを超えている。
なまえは、考えるように口元へ右手を当てた。最初に付けた目印が見つからないということは、正確にはループ構造ではない。次から次へと新しい部屋ができている、ツギハギ構造と考えるのが妥当だろう。
「(複数人なら、対処のしようもあったんだけどな…)」
もしここになまえ以外の人間がいれば、お互いが反対の部屋へ向かっていくことで、ツギハギ構造を機能させることができなくできた。
だが、今ここにはなまえ一人しかいないのだから、やることはひとつだ。
「(本体を、叩く)」
意識を集中するために、彼女は両目を閉じる。この建物が呪霊の結界になっているのなら、それは必ず、結界の内側にいるはずだと、その気配を探ろうとしたのだ。
だが、いつもなら容易にできるはずのそれが、頭に響く痛みで、上手くできない。
集中だ、集中。と、心の中で呟いて息を吐き出す。痛みで気が逸れるのは、自分がまだまだ未熟だからだと、己を叱咤する。
再度、目を閉じて、呪霊の気配を探ろうとした時。
咄嗟に、なまえが飛び退いたその場所に、鋭い針の様なものが突き刺さった。
どうやら、彼女が目を閉じていることを、好機とみたのだろう。あちらから姿を現した呪いの本体に、なまえは口角を上げる。
針が飛んできた先を見れば、蜘蛛の形に似た、呪霊の姿があった。なまえが顔を歪めたのは、その背中に浮かぶ模様が、人間の顔にしか見えなかったからだ。
なまえが呪霊の姿に気を取られていたその時、先程の針が刺さっていた床が、急に輝いたかと思えば、そのまま針を中心に、直径1メートルほどが、光の粒子となって消えていったのだ。
「…分解…?」