第11章 絶望
「…なまえが、2日前に任務へ行き…それから、連絡がとれなくなった。安否の確認と、任務の引き継ぎを頼む」
まるで、頭から冷水を浴びせられた様だった。
ただ、大きく目を見開いた五条は、縫い止められたように、動きを止めた。
耳から入った言葉に、一瞬、何も考えられなくなったのだ。内容は理解したはずなのに、それは、理解もしたくないようなことだった。
言葉の出ない五条に、夜蛾は目を伏せる。
「すまない、悟。お前に嫌な知らせばかり伝えることになった」
自分の心臓の音すら、雑音に聞こえた。
2日前、と。動き出した頭の中で、彼はつぶやく。
2日前といえば、五条自身が、夏油の知らせを聞いて、なまえに詰め寄った日だ。
医務室で診察を受けていた彼女は、記憶にあった姿よりも、顔色が悪く、頬も痩けて、明らかに病み上がりだった。掴んだ肩は、あんなに細かっただろうか。
「…任務に、行かせたのか…?」
とても、任務に行ける状態じゃなかったはずだ。彼女の側で、彼女をずっと見てきた五条だからこそ、分かった。彼女の、状態の悪さが。
「…悪い。本人が体調も回復したと話したから、提案したんだ」
なまえも、躊躇いなく了承した。
夜蛾の言葉に、五条は、自分の体が震えていることに気付いた。何かに恐怖する様に、手の震えが止まらない。
あの日の彼女が、フラッシュバックする。
理不尽な自分の言葉に、ただ、謝罪し、俯いていたなまえ。傷つけたことぐらい、理解していた。
傷つけた自分に、吐き気がしたのだから。
親友を失ったのは、自分だけじゃないだろう。
背中に、ぞわりとした寒気が、張り付いた。
「っ、場所は?」
早く。一刻も、早く。
大丈夫だ。冷静になれ。と自身に言い聞かせる。
なまえの術式は、逃げと守りに秀でている。
恐らく、閉じ込められたか、逃げられず隠れているか。可能性としては、十分あるはずだ。
もし、失ったら、なんて…
考えたくも、ない。
止まらない震えを、彼は握りつぶした。