第11章 絶望
いつものように、医務室で診察を受けていた時。
バンっと。強い音を響かせて、ドアが開いた。思わず、振り返ったなまえの目に飛び込んできたのは、久しぶりに見る、五条悟の姿で。
彼から漏れる、ただならぬ空気に、なまえは、〝聞いたのだ〟と思った。立ち上がったものの、硬く強ばるなまえに、僅か数歩でその正面に立った彼は、強く、彼女の肩を掴んだ。
痛みに、なまえの顔が歪む。
「どういうことだよっ」
叫ぶように、響く声。それを発した彼の顔は、苦痛に満ちていた。こんな彼の表情を見るのは、彼が最強となって久しかった。悩みも、不安も。今まで彼が抱いているようには見えなかったから。
言葉を返さないなまえに、益々彼の指が強く、肩に食い込む。
「んでっ…なんでお前が付いていてっ、傑を止められなかったんだよっ!」
その言葉は、なまえに深く突き刺さった。夜蛾も、硝子も、彼女を責めなかった。だが、なまえはずっと、思っていた。一番近くで見ていたのに。夏油の悩みに、気付けなかった。止められなかった。
その責任は、自分にあるのではないか、と。
泣いて、見ているだけだった。夏油が行った、虐殺を。嘔吐し、喘ぐだけだった。
「分かってんのかっ!呪詛師になったらっ、どうなるのかっ…!」
耳を塞げたら、どれだけ良かっただろうか。掴まれた肩の痛みは、今、五条が感じている痛みの何分の一なのか。
殺さなければ、いけないのだ。
友人を。親友を。あんなにも一緒に過ごした、仲間を。それは全部、なまえが夏油を止められなかったから。
改めて突きつけられた現実は、なまえをまた、あの日へと戻した。特級である夏油を、殺せる人間なんて。目の前の彼以外に、いるのだろうか。
気づいて。今まで、ゆっくり休んで心と体を癒そうだなんて、そんな自分自身に、吐き気がした。