第11章 絶望
そんななまえを見て、夏油は、スッと手を差し出した。
「一緒に行くかい?なまえ」
差し出された手が、涙でぼやけて見えた。
それなのに、鮮明に浮かんだのは、五条悟の姿だった。彼を置いてなんて、行けるわけがない。
首を横に振る彼女に、夏油は残念そうに笑った。
そして、静かに手を戻す。
「やっぱり、悟には勝てないか。なまえは一年の時からずっと、悟が大好きだからね」
彼は優しく微笑んだ。そして、呪術師の証である、金色にうずまくボタンを引きちぎると、それをポトリと地面に落とした。
涙のように落ちたそれを見て。もう、ダメなのだと、なまえは理解した。
覚悟なんでできなかった。
例え殺されても、自分には夏油を殺すことなんてできないと思った。
でもそれでも。止めなくてはいけない。止めないと、これ以上、夏油に人を殺させてはいけない。
ふらふらする体を、支える様に、両足を少し開いて、地面を踏みしめた。
「なまえ、一年生の時。一度だけ私の名前を呼んでくれたことがあったね」
懐かしむように、夏油が目を細める。
ひどい頭痛が、また彼女を襲って、頭の中がぐるりと回る。
「悟には悪いけど、あれ、嬉しかったよ」
瞬間、なまえの意識は、溶けるようにして消えた。