第11章 絶望
「この子達は、きっかけに過ぎない。それに」
彼の目が、なまえを見据えた。
「この子達の気持ちは、なまえが一番分かるんじゃないか?」
静かな声なのに、彼女の頭にそれは響いて。それは、なまえが何より忘れたかった記憶を、じわりと、刺激した。
「おかしいと思ってたよ。なまえは高専にきてから一度も帰省していない。私達と何をする時も、まるで初めてのように喜んでいた。…よく見てただろ?」
大切な友達だからね、と。
どうしてそんなことを言うんだと、なまえの右頬を涙が伝う。
「君が倒れて、私が一人で行った任務があったよね。その任務地が、なまえの地元だったのは覚えてる?」
覚えている。行きたくないなと、思っていた。だから正直、夏油には悪かったが、倒れた時はラッキーだと思ったのだ。
「任務ついでに、少し話を聞いたんだ。意外と早く噂に辿り着いた」
聞きたくなかった。知られたくなかった。両手で耳を塞ぎたいのに、体は相変わらず動かない。
「この町には、3年前までバケモノが住んでいたっていう、噂にね」
それは、なまえの一番柔らかい部分を抉った。目を、固く固く閉じるのに、過去が、それを許さない。
「君の周りの猿どもは、君が持つ力を畏れて、バケモノと呼んで蔑んだんだろう?」
「っ、違う!」
否定しなければと、弾かれるようになまえは叫んだ。違う、私が悪かったんだと。
そうしなければ、彼が、夏油が遠くへ行ってしまう気がした。
「違わないさ。だからなまえは、仲間を求めて高専にきたんじゃないのか?自分と同じ、術師という仲間を求めて」
その、通りだった。
自分と同じ術師であれば。今度こそ、仲間ができると思ったのだ。友達ができると、思ったのだ。
そして、手に入れた。大切な仲間を。友達を。
次から次へと、彼女の頬を涙が伝う。
夏油も、彼女の仲間で、友達なんだ。