第11章 絶望
「力もない猿どもが、術師を迫害するなんておかしいだろう」
はくがい、と。声もなく呟く。
夏油の背後に立つ、ひどい怪我をした少女達が、術師であることに気付き。なまえは、『バケモノ』と呼ばれていたのが、彼女達だったということを、理解した。
そして、夏油が、意思を持って呪霊に村を襲わせていることも。そんな、考えもしていなかった出来事に、なまえの思考が、うまく追いつかない。
「夏油、まって…その子達を、助けようと、したんだよね?だったら、私、ちゃんと、説明するから、この村の実態を…」
「なまえ、私は高専に戻れないし、戻る気もない」
村中から聞こえる悲鳴は、途切れることがない。
助けに行かなくてはいけないが、一人じゃ間に合わない。助ける方法は一つ。原因を取り除けばいいのだ。目の前にある、原因を。
分かっているのに、分かりたくなかった。
体は、目の前にいる仲間に対して、ピクリとも動かなかった。
「なに、何言ってんのっ!このままじゃ、夏油、死刑になるんだよっ!」
一般人を虐殺すれば、どうなるか。知っているから、信じたくなかった。
そして、彼女は、仲間を失えなかった。
「私がっ、ちゃんと証言するからっ。この村は、呪霊に襲われたことに、するからっ!だからっ」
「術師の君が、そんなこと言っちゃダメだろう。そんなことをすれば、君も死刑だ。それに、言ったはずだ。もう、私は決めたんだ」
本気だった。本気で、嘘でも何でも吐こうと思った。それぐらいに、夏油は、なまえの仲間で、友達だったから。
態度を変えない夏油に、なまえはくしゃりとその顔を歪ませる。
そして、夏油の後ろに立つ少女達を見た。びくりと怯えた顔をする彼女達。
会ったばかりの、他人じゃないか。
「っ…その子達のために、私たちを、…高専の仲間を、捨てるの…?」
どんな言葉を使っても。誰を貶めても。縋ってでも。夏油に戻ると言ってほしかった。戻るとさえ言ってくれれば、どんな努力も惜しまないつもりだった。思い入れのない、小さな村の住民達の命よりも、彼女にとっては夏油の命が大切だったから。