第11章 絶望
もし万が一呪霊がいたとしても、特級の夏油が祓えないレベルはあり得ないだろう。もしそこそこの強さだとしても、現在無能タイムであるなまえでは、逆に足手まといになるかもしれない。
依頼者へついていく彼を見送って、なまえは、近くにあった石の階段に腰をかけた。正直なところ、先程の呪霊を祓ってから、より頭痛は酷くなっていた。
「ねぇ、あなた東京からきたんでしょ?」
それは、飴玉を転がしたような声だった。顔を上げれば、花柄の可愛らしいワンピースを着た少女が立っていた。小学校高学年ぐらいだろうか。
「うわ!ひどい隈!東京の人ってもっとおしゃれなのかと思ってた!」
「まーピンキリだよ」
因みに高専の制服が黒いのは仕方ない。隈は自分の責任だけど。
返事をしたなまえに、気を良くしたのか、少女はなまえの横にちょこんと座った。
「私も東京行ってみたいんだ!ネズミーランドに行きたいの!」
「残念ながら、ネズミーランドは東京じゃなくて千葉なんだよなぁ」
「えっ!ならなんで東京ネズミーランドなの!?」
「…大人の事情ってやつ、かな」
「なぁにそれ」
くすくすと笑う少女は可愛らしい。頭痛は相変わらず酷いが、人と話している方がいくらかマシかもしれない。
「あなた達、アレでしょ?」
少女は、訳知り顔で口角を上げた。
「村にいるバケモノを退治しにきてくれたんだよね?」
なまえは、自分がちゃんと笑顔を作れているか、一瞬不安になった。強ばりそうになった口元に手をやってごまかす。
「うん。もう退治したよ」
「うそ!さっき一緒にいたお兄さんが退治しに行ったんでしょ?」
ん?となまえは頭に疑問符を浮かべる。先程の夫婦といい、この少女といい。やはり夏油と自分が祓った呪霊以外に何かいるのだろうか。
「私知ってるんだ。みんな言ってる、あいつらはバケモノなんだって。だってね、」
弾かれるように、なまえは立ち上がった。
突如として、呪霊の気配が数多く湧き出したのだ。瞬間、村中から響き渡る悲鳴。
いったい何が、と彼女は考えて。