第11章 絶望
「なまえ、やっぱり無理しない方がいい」
心配気な夏油に返したみょうじの笑顔は、あまり上手いできではなかった。
その日は、すこぶる体調が悪かった。ひどい頭痛と、耳鳴り。吐き気。それでも任務に出たのは、未だ尾を引く仲間の死を、少しでも忘れたかったからだ。
「大丈夫。それに、もうこれで任務は終わりでしょ?」
今回の任務は、地図にも載っていないような村落での、神隠し、変死、その原因と思われる呪霊を祓うことだった。
呪霊自体は、村に着いてすぐに発見し、祓うことができた。ただ、今から高専に戻るには、村はインフラの整う町から離れすぎていた。
時間的にも、村で一泊した方が良さそうだ。もうじき、夕日が村を照らすだろう。
「そうだな。それじゃあとりあえず、依頼者のところに報告へ行こうか」
「おっけい」
夏油の少し後ろを歩きながら、何となく視線を感じて周りを見渡す。独特な空気のある村だった。良い言い方をすれば、昔ながらの。悪い言い方をすれば、閉鎖的だ。
こそこそと、なまえと夏油を伺うそれは、あまり気持ちの良いものではなかった。
「ああ!あなた方が高専からこられた方ですね!」
目的地に向かう途中で、どうやら先に向こうがこちらを見つけたらしく。駆け寄ってきたのは、中年の男性と女性だった。夫婦だろうかと、なまえは視線を向ける。
「待っていました!事件の原因を閉じ込めているので、ぜひ祓ってください!」
「お願いしますっ」
「事件の原因?」
なまえと夏油は顔を見合わせる。原因ならば、もう先程祓い終わった。もうこの村に、呪霊の気配は無い。はずなのだが。
もしかしたら、自分たちが分からない何かがいるのかもしれない。どちらにしても、確認しない訳にはいかないだろう。夏油もその考えに至ったようだ。
「分かりました。そこへ連れて行ってください」
「はい!」
「なまえは…」
ちらりと、夏油がなまえを見る。
肩で息をする彼女に、追い討ちをかけるように、夕日が差した。これで、なまえはしばらく無能確定だ。
「…ごめん、ここで休んでていい?」
「もちろん。私一人で大丈夫だと思うよ」