第11章 絶望
止められないぐらいに震えている右手を、同じぐらい震えている左手で握って、物言わぬ灰原の顔に、布をかけ直す。これをかけてしまえば、もう彼の顔を見ることはないのだと。分かってまた、頬が濡れていく。
2級呪霊だったはずの討伐任務が、実は1級だったというだけ。死体も残らないことがあるのだ。全身が比較的綺麗な状態で残っているだけ、幸運なのだろう。仕方ないことなのだ。仕方のないことだけれど。
だからといって、どれだけの人間がそれを割り切れるんだろうか。
その場にいる、誰もが泣かないから。
代わりに、彼女は泣いた。
泣けない彼らの代わりに、いくらでも涙は尽きなかった。同級生であった七海も、慕われていた夏油も。それが分かって、彼女の涙を止めなかった。
灰原の死に、少しでも多くの涙が流れるといい。そうじゃないと、寂しすぎるから。
溢れ出る呪霊。
それに比例する忙しさは、彼女達から仲間を奪い。誰かを気にかける余裕すら、奪っていた。
この時、夏油の顔を見ていたなら。何か変わっていただろうか。いやきっと、何も変わらなかっただろう。だって私たちは、疲れ切っていたから。