第10章 変化
医務室に入った当初、若干の緊張を感じて強張っていたなまえの表情が柔らかくなったのを感じ、硝子も意識せず安心する。顔を青くして嘔吐したこともだが、その後、呆然としたように全く話さなかった彼女を心配していた。付き添いたかったが、五条がなまえに張り付いていたため、仕方なく彼に任せることにしたのだ。
五条のことだから、空気を読まずになまえを揶揄うだけ揶揄って、更に状況を悪化させるのではとも考えたが、硝子が思っていた以上に、彼はなまえに弱かったようだ。
「ってか、なまえちゃんと寝なよ。そんなんじゃ治るものも治んないって」
形上、ベッドの上にはいるが、完全に起き上がっているなまえ。そんな彼女を見て、硝子は軽く眉を寄せる。
「あ、でもけっこうもう元気で…」
「と言って結局さっきも万全じゃなかったんだから、ここは素直に寝ようか」
「は、…はーい」
続けて夏油にまで言われては、もうなまえに味方はいない。嘔吐した後ろめたさもあって、すぐにベッドの枕に頭を沈める。もちろん、布団を引っ張って戻すのも忘れずに。
「それじゃあ、大勢に見つめられてても寝られないだろうし、私達は出るよ」
「んじゃなまえ、お大事にね」
「ありがと〜」
部屋を出ようとした夏油は、椅子に座ったまま動かない五条に足を止める。
「悟、行くよ」
「あー、俺はこいつが寝たの確認したら出るから」
「えっ、私の信用低くない?」
「高いとでも思ってたわけ?」
当たり前のように残る五条と、それを拒否しないなまえ。そんな2人の姿を見て、藪蛇だなと夏油と硝子は静かに医務室を後にしたのだった。