第10章 変化
頭を下げながら、正直なところ、なまえは彼に感謝していた。車内で嘔吐した際、更にそれが五条の服も汚してしまった時。終わらない気分の悪さに肩で息をしながらも、人生が終わったと思った。というか終わらせられると思った。だが、予想外に彼は、嘔吐を浴びたことについては全く悪態を吐かず、そのまま制服の上着を脱いで、こうなったら出るものは全部吐けとそれを受け皿にしたのだ。
そして、車を降りて汚れを落とし、着替えを終えた後も、なんだかんだで彼女に付き添って、今もここにいた。もちろん医務室に入る際は、彼の付き添いを拒んだのだが、唯我独尊の五条を前に、体調不良のなまえは簡単に押し切られた。
「もうめちゃくちゃ恥ずかしい…」
「お前が恥ずかしいのは今更でしょ」
「どういうことっ!?」
お見舞いに来ているのか貶しに来ているのか。だが、嘔吐の直接被害を浴びた五条と顔を合わせて話しているうちに、少しずつだが彼女の気持ちが落ち着いてきていることは事実だった。五条がいなければ、間違いなく閉じこもって丸一日寝ることもできずに布団の中で唸り続けていただろう。
その時、医務室のドアがノックされた。
なまえが口を開く前に、五条がドアに向かって「どうぞー」と勝手に返事をする。あれほど一人にしてほしいを連呼しているのに何をしてくれるんだと、五条の頬をつねろうと手を伸ばす彼女と、それを物ともせず、あっかんべーと舌を出す五条。
ドアが開き、医務室に入ってきた夏油と硝子は、そんな二人の様子を目にして、呆れた表情を浮かべた。
「悟、なまえは体調が悪いんだから刺激するな」
「してねぇよ。こいつが勝手に盛り上がってるだけ」
「えー!?嘘嘘!しれっと嘘言ったよこの人っ!」
「大丈夫なまえ、五条がクズだってちゃんと分かってるから」
驚愕に目を見開くなまえを諌めるように、硝子が頷く。