第5章 コラボ企画 鬼滅夢 『泡沫に蓮の華』
衝撃音を聞き、巌勝が浴室へ向かう。
「どうした?」
問いかけるも応えがない。
「御免……」
浴室の扉をほんの少しずらし、中の様子を伺うと那岐が倒れていた。
気を失っている様子を見てとり、巌勝は彼女を抱き上げ、脱衣場にて体を拭いてやる。
嫁入り前の娘の裸だ。
あまり見ぬようにしなければ。
かといって、風邪を引かれても困る。
故に巌勝は過度に興奮しないように心掛けて那岐の着替えを完遂した。
寝室に布団の用意をし、彼女を横たえる。
不意に鬼狩りになるべく捨ててきた家族の顔を思い出した。
自分だけの身勝手な都合で置き去りにした妻と息子。
妻は武家の娘だった。
自らも武芸を嗜んでいたから、那岐よりも筋肉質だった。
体が丈夫なのが取り柄なのだと彼女が言っていた時期がある。
子宝が欲しかったのだろうと思い、そのまま夫婦になった。
いつだって俺は流れに身を任せていた。
自分も他人も誰かの『駒』であると巌勝は常々考えている。