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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第65章 年越しは3つの日輪と 〜another story〜✳︎✳︎



トン、トン、トン、グツグツグツ………。



包丁が小気味良く鳴る響きに、お鍋が竈の上で沸騰する音。
煉獄邸の台所で私と千寿郎くん、それから隠の内田さんの3人でおせちを作っている所だ。


「保存食だから、味付けは濃いめにするんだよね?」
「はい、そうです。俺はこれから筑前煮に取り掛かるので、七瀬さ……」


千寿郎くんの言葉が一瞬止まる。
ん?どうしたんだろう?

私は動きを止めてしまった彼と同じように、ごぼうを切っていた右手をピタッと止めた。

「いえ……姉上…は伊達巻をお願いします」
「あ……はい、わかりました」

彼に“姉上”と呼ばれるようになって1週間。
私の苗字は沢渡から煉獄へと変わった。この家の嫁と呼ばれる立場になった為だ。


「美味そうな匂いだな!」
汗を手拭いで拭きながら、彼が台所へ姿を見せる。

「稽古お疲れさまでした。これはお正月用のおせちです。後もう少しでひと段落するので、昼餉はその後にする予定ですよ。湯浴みの用意も出来てます」

「ありがとう、気遣い感謝する。では行って来よう」
パッとその場が1段階明るくなる笑顔を見せてくれたのは杏寿郎さん。



—— 大好きな恋人である彼は、愛する旦那様となった。






時は大正も半ばに差しかかった昨今。
鬼殺隊は長年の夢であった鬼舞辻無惨討伐を昨年成し遂げた。
たくさんの命が散り、たくさんの剣士が空へと還った。

それでも長く苦しい隧道(すいどう=トンネル)に出口は確かに存在していた。鬼がいない世界と言う明日がこうして現実になったからだ。



「ぐすっ……七瀬さん、すっかり若奥様ですね」
「えっ?内田さん、もしかして泣いていたんですか?」

その後、鬼殺隊は解散となった。
以前煉獄邸の専属隠として尽力してくれていた内田さんは、引き続き煉獄家の為に働きたいと申し出てくれた。

「だって……お2人色々経てのご結婚ですから」

内田さんはとても涙もろく、感極まった時は相変わらずこうして涙を見せるのだ。

「ふふ、確かに色々ありましたからね。ありがとうございます」


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