第64章 白夜と極夜 〜another story〜 ✴︎✴︎
季節は冬の訪れがもうすぐそこまで迫って来ている11月中旬の深夜の事 ———
“無限列車”と呼ばれる列車が線路から脱線したのちに横転した。
「ヒノカミ神楽・碧羅の天!!」
炭治郎が放った炎の輪は、列車と同化した下弦の壱・魘夢の頸を凄まじい断末魔と共に断ち切った。
しかし、その魘夢を倒したと思ったのも束の間。
突然1人の鬼が鬼殺の剣士を襲う。
その名は上弦の参・猗窩座。
12鬼月の1人だが、位は魘夢よりも上である。
沢渡七瀬の前方20メートル先でその鬼と応戦しているのは炎柱の杏寿郎だ。
「炎刀 対 闘拳」
「剣術 対 体術」
一つの拳と一つの剣がぶつかり合う様子を見ながら、七瀬は何も出来ない自分に苛立っていた。
「杏寿郎さん……………」
助太刀したい。
師範を助けたい。
そして何より大切な恋人である杏寿郎を守りたい。
思いは膨らむばかりなのに、両足がその場所にきつく縫い付けられてしまったかのように動けない。
『入れねぇ…』
彼女の左横に立っている伊之助もまた、七瀬と同じように動けずにいた。その野生的な本能で危険を感じていた為だ。
『あそこに行ったとしても俺に出来る事は……あんのか?』
両手に持つ日輪刀を一度グッと握る。しかし、それ以上の事が出来ない。
そして七瀬と伊之助、2人が立っている位置から2人分の距離に炭治郎はうつ伏せで横たわっていた。
伊之助との共闘時、運転手の男の手により腹部を刺された彼だが、杏寿郎の助言の甲斐もあって傷は止血出来ていた。
しかし ———
『くそっ……ヒノカミ神楽を使うといつもこうだ……技の威力に体がついていかない……』
やるせなく、悔しい思いが彼のその胸中を支配する。
「まだわからないのか!攻撃を続ける事は死を選ぶのだと言う事が……… 杏寿郎!!」
猗窩座の攻撃を受けた炎柱。
腹の底から出される咆哮と共に、両手に持つ炎刀で鬼の手首を押し退ける。
瞬間、後ろに飛び退く猗窩座。着地と同時に瞬く間に杏寿郎との間合いを詰め、その闘う拳を杏寿郎に打ち込んで行った。