第61章 茜は緋(あけ)に一生恋をする
「七瀬ー」
自分を呼ぶ声が聞こえた。
誰だろう……私はゆっくりゆっくり目を開ける。
そこにはただただ何にもない白い空間が広がっており、自分からやや離れた場所に懐かしい姿が立っていた。
その人は青紫色の羽織の下に隊服を着ている。
「巧!!」
私は笑顔になって駆け寄ろうとする。
けれどある程度まで近づいた所で、それ以上足を出すのをやめた。
そんな様子を見た巧は少しだけ寂しそうに笑う。そして「久しぶり」と私に声をかけて来た。
「ねえ」
「ん?どうした?」
「私、死んじゃったの?」
「んー」
巧は後頭部を触ると、目を瞑ってゆっくりと横に首を振る。
「まだ死んでないよ。でもそろそろ目をさまさないと危ないかもな………お前、もう2ヶ月眠っているから」
「えぇ?そんなに?」
「うん」
首を縦に振った巧はまた寂しそうに笑った後、言葉を続けた。
「あの鬼倒してくれてありがとう。なあ、やっぱり俺の言う通りになっただろ?」
「そうだね。でも……」
私は自分の胸に手を当てた。
きっともう……炎の呼吸を使う事は出来ない。
「仕方ないよな。血をあいつに変えられたってのもあるけど、あれだけの技を出したんだ。でもさ、お前本当すごいよ。俺が思った以上だった」
「ありがとう」
嬉しかった。
だって巧には生前あまり誉めて貰えなかったから。
「七瀬もう戻れ。お前の事をずっと待ってる人がいるぞ」
「私を待ってる人……?」
「そ。そしてすっげー心配してる」
それって……杏寿郎さん………?
「ごめん、俺もう行かなきゃ」
はっきりと見えていた巧の姿が少しずつ白くぼやけ始めた。
「じゃーな」
「あ、待って……巧!!」