第59章 2人の炎をあたためて ✳︎✳︎

「不都合だったか？」

さあ、何と答えるのか。

「もう、その聞き方はずるいです」

“嫌でもないし、不都合もない”
七瀬の表情はそうも伝えて来る。


「意地を張る七瀬もまたかわいい」
「…………」

じと……とこちらを睨むように見つめて来る恋人が本当に愛おしい。七瀬と恋仲になってからと言うもの、こうして2人の時間を過ごしている時に湧き上がるのは愛おしさ、可愛らしさに加えて加虐心や悪戯心なのだが……


「もう………」

目の前からは諦めたような声音。
すまんな、七瀬。しかし、俺は君のそう言う所もたまらなく好きだ。


自分の首に華奢な両手を回してぎゅっと抱きついてくる彼女を愛しく思いながら、ぽんぽんと掌で優しく叩く先は恋人の背中。

そこは七瀬の肌の中で1番特別な場所だ。
ゆっくりと撫でれば、くすぐったそうに身を捩らせる。



「七瀬」
「何でしょう……」


「背中にも良いか？」
目を合わせばその焦茶の双眸が潤んで揺れる。また自分の鼓動がきゅっ……と鳴って心地よく跳ねた。


「………綺麗に咲かせて下さいね」
「元よりそのつもりだ」



彼女の唇に一度しっとりと小さな温もりを与えた後、体をくるっとうつぶせにすると、右上から左下までおよそ30センチの傷痕が目に飛び込んで来た。
今夜1番。そう言って良い愛おしさが胸いっぱいに込み上げる。



「んっ……」

傷口のすぐ近くにまず甘いが強めの吸い付きを2回与えた。
続けて2回、また2回と続け、赤い花々を咲かせた後は、間髪入れずに労うような口付けをそれぞれの場所に落とす。