第58章 緋色の合図、茜色のサイン、2人のeyes
「これは将門塚再建の時の物か?」
「あ、はい……朝霧と戦った時ですね。蛇に締め付けられた跡がまだ消えてなくて」
両腕のちょうど真ん中に当たる場所——肘が曲がる所に鬱血跡がまだ残っていた。
「他はもう消えたんですけど、ここだけは残ってて……彼女の術が1番集中していた場所だからかもしれません」
改めてそこに目線を向ける。
「……あの時、引きちぎられていたかもしれないんですよね。改めて良かったです、無くならなくて……」
「…………」
「これが出来ないのが私には1番堪えますから」
両手で彼の頬をそっと包み込み、触り心地が良い肌を一度撫でる。
「あなたにここまで近づけるのは私だけなんだ…そう自惚れても良いですか?」
「これは自惚れる事なのか?」
恋人の双眸がまた一段と柔らかくなった。
「杏寿郎さんに近づきたい女の人って本当にたくさんいるんですよ。さっき私に自覚するようにって言われてましたけど…それはあなたにもあてはまります。もう少しご自分の魅力を自覚して下さい」
「う……む」
彼の眉がたれ下がる。……この表情が本当に可愛い。
「だから今私がいるこの位置は貴重なんです。杏寿郎さんの隣…ここは本当に価値がある場所なんですよ」
目を瞑って目の前の愛おしい人に触れるだけの口付けを贈る。
「光栄だな。そこまで思って貰えてるとは」
「愛しています。杏寿郎さん……」
再度、恋人に触れるだけの口付けをする。そして顔を離そうと思ったその瞬間——私の唇が彼の唇で塞がれた。
「君はどうしていつも俺の言いたい事を先に言うんだ?」
「えっ?」
今度は両頬が杏寿郎さんの大きな掌で包み込まれる。目の前の日輪の双眸には戸惑った様子の私が映っていた。
「七瀬、俺も君を愛している。心から」