第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「よっしゃ!松明も全部片付いたし、これで全部が終わりだ!お前らもありがとな!」
「いえ、とんでもありません」
使用された松明を4本ずつ背中に背負った3人の先輩隊士が、宇髄さんに労いの言葉をかけられ、ようやく皆さんほっとした表情を見せる。
「じゃ、俺らは念の為この付近の見回りに行って来るわ」
行くぞ…と甲隊士達を引き連れて、東の方角にあっという間に消えて行く。
「宇髄さんって本当に足速いですよねー……」
「柱9人の中で1番の俊足だからな!」
「善逸も足、速いんですよね。やっぱり鳴る系列の呼吸を使う隊士はそうなんでしょうか?」
「次点は不死川だからな。風も”鳴る”現象だから、そうかもしれない」
なるほど!……と私と炭治郎は冨岡さんの見解に敬意を表した。
「念の為、俺と炭治郎も30分はこの辺りを見回る事にする」
「冨岡、ありがとう!気遣い感謝する!」
何かあれば鴉を飛ばせ……兄弟子はそう私達に伝えると、彼の性格を表すかのように炭治郎と共に静かな夜闇に姿を消す。
2人だけ残された私達の前には石室のみになった。
「さて、七瀬」
「はい、どうしました?杏寿郎さん」
私を見つめる彼の双眸が柱の物から僅かに和らぐけれど、それはすぐに元に戻る。
「杏寿郎さん……?」
「………」
右の耳元に低音の囁きが落ちる。そしてすぐに刀の柄に右手を沿わせた。
“冨岡と竈門少年の姿が完全に見えなくなった途端に、僅かだが石室周りに小さな霧が1つ発生している。準備を”
彼の言葉を受け、石室に視線をやると————
「流石は柱ねぇ。人間の視力では殆どわからない大きさの霧なのに」
成人の女の声が響いた — かと思うと、石室前の真ん中から肥大するように出現していく大きな大きな霧は将門塚一帯をあっと言う間に覆いつくしてしまった。
腰まである艶やかな栗色の髪は1つ結びで、着ている着物は青系列の小袖。そして綺麗な顔立ちをしている女が、腕組みをしながら霧の中から姿を現した。
「杏寿郎さん、あの曙色の双眸です。先日の単独任務で同じ色の1つ目を見て、焼き印がついたんです」
鯉口を切りながら、抜刀をした私達2人を嘲笑うようにその女は言葉を紡ぎ出す。
「こんばんは、そして初めましてね。炎柱に継子さん。下弦の弐の朝霧よ」