第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「なあに?本当に小娘じゃない。夕葉はどうしてこんな女に苦戦するわけ?」
曙色の左目には「下 弐」の刻印。鬼の朝霧である。
彼女は自身の血鬼術「百里の眼(ひゃくりのまなこ)を使用して、つい30分程前から炎柱の杏寿郎とその継子の七瀬の様子を観察中だ。
『ふうん。星が好きなのね……私と一緒か。なかなか良い趣味じゃない』
朝霧は頭上の空を見上げる。
南天のそこには天の川に横たわる蠍座がキラキラとその存在を示すように光り輝いていた。
蠍座——12個ある星座の中で、嫉妬の情念が深い…とよく評される星座だ。
『あの女、炎柱の事は異性としてとても好きなようだけど、隊士としてはなかなか割り切れない感情を持っている…ここを攻めてみようかしら』
「ああ、お帰り。ご苦労様」
その時———朝霧の左掌に小さな丸い物体がフッと現れた。彼女が探知に使っていた自分の曙色の眼球である。
よしよしと右掌で撫でた後、右手の親指と人差し指でゆっくり持ち上げて、空洞になっていた右目の場所にそれを静かにはめた。
『私の血鬼術の方が、夕葉より遥かに優れているのに......たかだか顔が綺麗。それだけの理由であのお方に気に入られている......』
『数字も私より上なんて、絶対に絶対に許せない!沢渡七瀬......必ず私が喰ってやる』
ギリ……と歯を食いしばった彼女の口元からは一筋の血が流れ落ちた。牙で口の中が切れた為である。
『あんたにはあの術をかけてあげる。愛情が嫉妬に変わる姿を見るのがほんっと楽しみ……』
朝霧は腕組みをして、再び夜空を見上げながらくつくつと笑う。
彼女の曙色の双眸の先には——— 15の点で形作られている蠍座があった。