第51章 甘えさせ上手と言われたい ✳︎✳︎ +
「どうした?」
「いえ…杏寿郎さんって本当にきれい、だなあって」
「またそれか」
きれいと形容された事など今まで一度もなかった為、今だに慣れない。七瀬が言ってくれる事なので無論悪い気分にはならないが。
「だって本当にきれいですもん。眉間にシワが寄る所とか」
「…そうなのか?」
「はい。基本的にいつも杏寿郎さんは前向きなので。こうして私と…密着して、いる時にしか見れないし…独占出来てるなあとも思うから」
「なるほど」
確かに普段の俺は眉間にシワなど寄らないな。あまり迷わないと言う性分のせいもあるかもしれない。
「もちろん顔立ちが綺麗と言うのもありますけどね。眺めているだけで幸せになります」
「ん? 眺めるだけで良いのか?」
離れていた顔をグッと七瀬に近づけてみれば、一瞬体の動きが止まる彼女である。
「俺は君を眺めるだけでは、とても満足出来ないぞ? 七瀬とは手を繋ぎたいし、抱きしめたい。無論素肌同士をこうして重ねたいし、口付けもたくさんしたい。それから ——」
あたたかな君のなかにはいって、包まれたい。
「あの、ごめんなさい…眺めているだけは寂しいです。私も杏寿郎さんと手を繋ぎたいし、抱きしめたいし、抱き…しめて、も貰いたいし…」
「君の言いたい事はそこで終わりではないのだろう? ゆっくりで構わないから、教えてくれ」
七瀬が何と答えてくれるのか。大方の予想は出来るが、やはり彼女の口から直接聞きたい。聞かせてほしい。
頬を両手で包みながら、小さな口付けを七瀬に贈る。紅を塗っていないが、そこに乗っているのは艶やかな桃色だ。
「えっと…今こうして体を密着させたり…それか、ら…」
「うむ、続きを頼む」