第38章 よもやのわらび餅
「お2人もわらび餅を買って来るなんて……本当にびっくりしてしまいました」
「俺もだ!」
お土産として私が買って帰った後、2人はあの甘味所に立ち寄って来たそうだ。
因みにあのお店の名前は「以心伝心」
私は抹茶のわらび餅を、杏寿郎さんは黒蜜のわらび餅をそれぞれ選び、持ち帰りをして来た所。
「私、お店ではきなこを食べたんです。食べなかった抹茶か黒蜜で悩んだんですけど、なんとなく抹茶かなあ……って」
「父上が黒蜜が食べたいと言われてな。俺も黒蜜の気分だったのでこれに」
「おい……俺は食いたいとは一言も言ってないぞ」
「しかし、美味そうだとはおっしゃいました!」
彼がハハハと笑えば、槇寿郎さんの瞬きの数が増す。
頬が赤く染まる様子を見た私と千寿郎くんは、二人笑顔で顔を見合わせた。
ここは煉獄家の居間。みんなでいつも食事をする場所。
私の対面に杏寿郎さん、その向かって右横に槇寿郎さん、そして、私の右横には千寿郎くんが座っている。
決まっているわけではないけど、何故かいつもそれぞれがこの場所を選び、この位置に座るのが定番化となっていた。
「ここのわらび餅は絶品と聞いてて、ならばぜひ一度はと思っていたんだが、なかなか行く機会がなくてな。今回ようやく叶って俺も嬉しい」
槇寿郎さんが黒蜜がかかったわらび餅を器用に楊枝で掬い、口に入れた。すると途端に笑顔になり、美味いなと漏らす。