第35章 緋色の戸惑いと茜色の憂鬱
ある日の事。
「今日もありがとうございました」
「ああ、お疲れさま」
柔軟を含めた稽古が終わった。
「あの……杏寿郎さん……」
私は遠慮がちに彼を呼び止めるのだけど……
「すまない。書類の整理をこれからしないといけない。またにしてくれ」
彼はそう言うと私の顔を見る事はなく、木刀をしまうとそのまま家の中に入って行ってしまった。
稽古以外、全く口を聞いていない状態が続いていて今日で3日目になる。
“杏寿郎さんなんて、大嫌いです!”
私は恋人にそう言ってしまった。そんな事言うつもりじゃなかったのに。嫌いなわけない。大好きなのに……。
“ごめんなさい”
この言葉を言いたい。まともに会話ができないからそれさえも伝えられない。