第30章 可愛いとかわいい ✳︎✳︎ +
二人でしばらく体を寄せ合って、小さな愛撫をたくさんし合う。
何気ない会話を交わして、何でもない事で笑い合う。
「えっ? そんな事私、言ってないですよ〜」
「俺はあの時、そう聞こえたのだが」
「ふふ、じゃあ私の言葉が足りなかったのかもしれません。ごめんなさい」
「大事ない! 俺も気が急く性分な故、違うように捉えていたかもな!」
杏寿郎さんと恋仲になって感じる、些細な出来事をこれからも少しずつ少しずつ積み上げていきたい。
「杏寿郎さん」
「どうした?」
この”どうした?” って聞いてくれるのも好きなんだよね。
いつもいつも私を大事にしてくれるあなたが……
「大好きです」
「ありがとう」
あなたを好きだと言う度に、私を好きになってほしいな。
少し自己中心的な願いだけど、それぐらい杏寿郎さんを思っているよ。
「七瀬、俺も君が大好きだ」
あなたが私を好きだと言ってくれる度に、私はあなたが好きになる。そんな事を思案していると、恋人から甘く優しい口付けが届く。
男らしくていつも堂々としている杏寿郎さん。
でもごくごくたまにかわいい部分を見せてくれる杏寿郎さん。
どうかまたそんな姿を見せて下さいね。
愛しい彼が私をぎゅっと抱き寄せる。
たくましい胸板にそっと頭を預けて、これからの日々に思いを馳せた --------- 。
✳︎七瀬から見た景色✳︎
〜終わり〜