第26章 蟲柱、胡蝶しのぶ +
「近々蝶屋敷に行くようにって事ですね。わかりました」
杏寿郎の包帯を交換し、巻き終えた七瀬は彼に笑顔を見せた。しのぶが彼女に伝えたい事と言うのは、背中の傷の定期診察だった。
「三ヶ月に一度は来てほしいって言われてるんです。前回行ったのが七月だから…五ヶ月経ってますね」
苦笑しながら杏寿郎に伝える七瀬だ。
「隊士はどうしても任務が最優先になる故、そう言った事は仕方ないと言えば仕方ないな! が、体が資本なのは事実。俺も久しぶりに怪我をして実感したぞ」
「はい、杏寿郎さんの言う通りです…明後日非番なので行って来ます」
「うむ、そうしてくれ! ん、どうした?」
七瀬は杏寿郎の胸にぴったりと体を寄せ、いつもしているように両の瞳を閉じる。
「杏寿郎さんはめったに怪我なんてしないでしょう? だから最初聞いた時、肝が本当に冷えたんです。目で大丈夫って確認出来たから、体でも安心したいなあと思ってこうしてます」
「ははは! そうか、君は本当に甘えたがりだなあ」
「恋人は甘やかす物だって言ったのは杏寿郎さんです。だからその通りにしてます〜」
「わかった、わかった」
七瀬の体に両腕を回し、しっかりと受け止める杏寿郎である。雪が降りそうな寒い一日だが、二人の心と体はぽかぽかとあたたまっていく。
「…七瀬、寝るなよ?」
「はい…でも杏寿郎さんあったかいから眠く、なっちゃ…」
七瀬がそう言葉をもらした次の瞬間、早速寝息が聞こえて来てしまう。
『よもや! 言った側から!! しかし…』
杏寿郎はスウスウと気持ちよく寝る七瀬の顎を静かに掬い、触れるだけの口付けを贈った。
『自分を心配してくれる存在といると言うのは、ありがたい事だな』
それから五分後。
声をかけただけではなかなか起きない七瀬に、杏寿郎は目覚めの口付けを施すのである。