第21章 上弦の月と下弦の月 ✴︎ 〜 茜色の恋、満開 +
失踪した後に不幸が起こるなんて怖すぎる。
真打ちの噺家さんは流石!とうなるほどの口ぶりで、私は終始震え上がっていた。
隣の恋人の着物の袖をしばらく掴んでいたのだけど、見かねた彼が私の掌を両手で包んでくれた。
噺が終わるまでずっとそうしてくれて、何とか最後までその場にいる事が出来た。
★
「はあ。寿命が縮まりました」
お寺から出た私はゆっくりと何回か深呼吸をする。
ぐ〜〜〜。
安心したらお腹の虫が鳴いてしまった。
恥ずかしい!!その途端、杏寿郎さんがくつくつと笑いだす。
「君は何と言うか。本当に見てて飽きないな」
私の頭をポンポン、と優しく撫でてくれる彼だ。
「それって褒め言葉なんですか?」
「もちろんだ」
その言葉と一緒に、彼が私のおでこに口付けを落としてくれる。
ん……!思わず目を軽くつぶってしまった。
「杏寿郎さんって……」
「何だ?」
私の目を優しく覗きこんでくる。
「稽古以外の時は本当に優しいですよね」
「そうか?自分ではよくわからないが…」
「優しいです。だから甘えっぱなしになりそうです」