第14章 蛇柱、伊黒小芭内 +
「ほう、お前の元で三ヶ月も続けていられるとは……大した物だ」
「シャー」
「君に言って貰えると、本当に嬉しい!鏑丸もありがとう!」
ここは蛇柱である伊黒小芭内が住んでいる屋敷だ。
杏寿郎が相棒の要を飛ばして予定を聞くと、今日の午前中なら在宅しているとの事。彼は任務に向かう途中で蛇柱邸へ立ち寄った。
柱同士で顔を合わす事は互いが忙しい事もあり、なかなか難しい。しかし、このように偶然予定が合う事もある。そういう時を利用して、各々が交流をしている。
二人は縁側に座り、束の間の休息の時間を過ごす。小芭内の首元には白蛇の鏑丸が主(あるじ)によりそうように巻きついていた。
「壱ノ型の改か……基礎から応用に活かす力はあるようだな」
「ああ!俺もそこが沢渡の利点だと考えている。何よりあの目だな。戦いになると途端に剣士へ変わる!」
「煉獄…先程から継子の話をしている時のお前は、普段より声が大きくなっているぞ」
「む、すまない!つい嬉しくてだな」
『継子に対しての感想と言うよりもむしろこれは……』
小芭内は隣に座っている杏寿郎をまじまじと見つめながら逡巡していた。自分にも覚えがある感情 —— それを友人は恐らく胸に灯しているのではないかと。
「どうした?」
「いや、お前はいつも機嫌が良いが、ことさらだなと思っていた所だ」
「む?そうか?自分ではいつもと変わらないと思っているが!」
「……(どこがだ)」
小芭内は目の前の男の鈍さにやや呆れ気味であった。
『人の事はよく見ていると言うのに……自分の事となるとこうも鈍くなる物か?ああ、そう言えばあの時も ——— 』
★
それは今より八年程前の事だ。
小芭内がまだ柱でもなく、鬼殺隊士でもなかった時。彼は槇寿郎が炎柱を務めていた頃、とある鬼から助けられた事がある。
場所は東京府八丈島 ——— 小芭内は女ばかりが生まれる家に生を受けた。男が生まれたのは実に三百七十年ぶりだと言われていた。
貴重な贄(にえ)として扱われる事になった彼は、小さな檻へと捕らえられてしまう。