第7章 試練
(あれ?道着が新しい物になっている。鍛錬場に来いっていうことは、何かしら稽古をつけてくれるのかな)
準備された道着に腕を通すと、フワリと嗅ぎなれた香りが鼻をくすぐる。煉獄家の香りだ。
「着丈が合うということは、千寿郎さんのものかしら。借りちゃって申し訳ないな、洗濯してお返ししないと」
袴の紐をしっかりと縛り、髪を後頭部の高い位置で一つ結びにすると、湯浴みで緩んだ気持ちが引き締まる。脱衣場を出ると、鍛錬場の場所を聞いていないことに気付いたので、とりあえず、と居間に向かうと道着を着た千寿郎が出てきた。
千「あぁ、着丈が合ってますね。よかったです、俺の物で申し訳ないですが、父上が準備するよう言われましたので」
「やっぱり千寿郎さんの物でしたか。お借りして申し訳ありません。ところで鍛錬場の場所を聞いていなくて、教えて貰えますか?」
俺も呼ばれているので一緒に行きましょう、と微笑まれ、月奈もつられて微笑む。
千寿郎についていくと、以前自分が泊まった部屋を通った。
(あの頃より少しは強くなったんだろうか)
道着の上から、まだ胸元に残るあの時の傷を撫でる。
しのぶが手を尽くしてくれたが、やはり傷跡は残ってしまった。しのぶは気にしていたが、自分からすれば特に気になっていない。寧ろ、覚悟を決めるきっかけとなった傷だと思っている。
千「月奈さん?どうしましたか?」
部屋の襖に手を掛け、振り返った千寿郎は胸に手を当てる月奈を不思議に思い問いかける。
何でもありません、と月奈は微笑むと千寿郎が襖を開いた。
槇「月奈、すまないな。そこに座ってくれ」
「いえ、お待たせしました」
鍛錬場には槇寿郎が道着に着替えて正座していた。
その向かいには同じく道着姿の杏寿郎が座っている、入口に背中を向けているため表情は分からないが、姿勢を正して座る姿は綺麗だと思った。
槇寿郎の前に三人が並ぶように座ると、コホンと咳払いをして槇寿郎が話し出した。