第2章 忘却と願い
ー逃げて!
(誰?どうしてそんなに泣いているの?)
ー姉上!走って!
(手をつないでるのは…誰?あね…うえ?)
「あね…うえ…って…」
目を開くと、お世話になっている病院の天井が見える。ゆっくりと体を起こし「あねうえ?」と呟いた。
(私には弟がいた…?……ダメだ思い出せない)
「そもそも、ただの夢?」
頭を抱えてう~んと考えていると、カチャリと扉が開く音が聞こえた。
ア「おはようございます。…月奈さん、頭が痛むのですか?」
眉根を寄せて手を額に当ててくるのは、この病院もとい蝶屋敷の関係者で月奈の世話をしてくれている女性、神崎アオイだ。
「あぁ、違うの。ごめんなさい!アオイさん。夢が気になって考え事してただけなんです」
そうですか、とホッと息をついてから「夢ですか…」と呟いている。
月奈が蝶屋敷でお世話になって2週間が経っていた。
3日間の昏睡から目覚めたときは、体を起こすことすらままならない状態だったが、しのぶはもちろん蝶屋敷の人達の看護のおかげで蝶屋敷の庭をお散歩出来るくらいまでに回復してきている。