第6章 迷いと決意
「杏寿郎様!いらしてたんですね!…うぶっ」
月奈は、少し離れて立ち尽くしている杏寿郎に走り寄った。近付いた瞬間に抱きすくめられ、月奈は杏寿郎の胸に鼻をぶつける。
「ぷはっ…痛いですよ、杏寿郎様。どうされたのですか?」
鼻を押さえて上を向くと、ニコリと微笑まれた。
しかし、何故か血管がピキピキと浮いている。
(え?なんで怒ってるの?)
実「…煉獄ゥ、月奈にケガさせんなよォ」
し「今の鼻のケガは不死川さんのせいでは?」
実「はァ?なんで俺なんだァ?」
煉「よもや、不死川と月奈が抱き合ってる場面に出くわすとは」
「実弥様と抱き合ったことが悪かったのですか?それならそうと言ってくださればいいのに…」
困った人ですね、と鼻を撫でながら呟くと杏寿郎の腕の力が増した。なんで?と驚く月奈の耳にしのぶの声が届く。
し「不死川さんと月奈は、そういう仲なのですか?それだったらこちらがお邪魔したということで謝ります」
そういう仲?と実弥も月奈も首を傾げる。
徐々に意味が分かってきた月奈はじわじわと顔が赤くなっていく。
実「は…?え?月奈は妹みたいなもんだからなァ。何か悪かったか?お邪魔ってなんだァ?」
「実弥様はお兄ちゃんのような人で。つい…抱き着いちゃいまして…確かに本当の兄妹ではないので失礼でした!すみません…!」
煉・し「は?兄妹…?」
ピリピリしていた空気が一気に冷めていく。
すまん、と腕を緩めて月奈の鼻をスルリと撫でる杏寿郎の表情からは、怒りは消えてなんだかホッとしているように見える。月奈は杏寿郎を見つめ、痛かったんですからねと苦笑いする。
実「…胡蝶、まさか煉獄の奴…」
し「…あれで無意識のようです。もちろんあの様子では月奈は露とも気付いていませんね」
呆れて溜息をつくしのぶの横で、実弥の表情はなんとも言い難いものになっていた。
し「補足すると、弟の千寿郎君のお嫁さんとして槇寿郎さんが縁談を持ちかけているとか…」
ボソリと衝撃的な話を囁かれ、実弥は額に手を当て空を仰いでいた。