第6章 迷いと決意
煉「矛盾しているぞ。生きるつもりだと言いながら、自害を考えているなどと。本当は何を考えている、何がしたい?」
探るように月奈の瞳を覗き込む。
杏寿郎にまっすぐと見つめられ少し瞳が揺れた後、月奈の体の力が抜けた。
「矛盾、そうですね。杏寿郎様の言う通りです。そのどちらも本心なのですが…意味が分かりませんよね」
自嘲気味に笑うと、月奈は杏寿郎に体ごと向き直った。全てに於いて嘘偽りはない。だからこそ矛盾している。
「鬼殺隊に入れば、自衛する力のある隊士ばかり。誰も私の血のせいで死ぬことは少ないと思います。周囲に危険が生じれば私が囮として役立つかもしれません」
煉「囮だと…?そんなもの…」
遮るように言葉を発した杏寿郎に、月奈は自身の唇に人差し指を当てて「聞いてください」と苦笑する。
「人里に戻れば、私はただ鬼を呼ぶ害悪となります。誰も鬼に対抗する術を持ちません、周囲を危険に晒し最終的に喰われて鬼の養分にされたとしたら…私は悔やんでも悔やみきれません。巡り巡って鬼殺隊にもご迷惑をおかけすることになります」
ーだからこそ、私は人殺しになる前に死にたい。
煉「どう選んでも君は苦しいだけではないか」
「いいえ、私が救われたように誰かを救えるならば苦しくなどありません。それに鬼殺隊が鬼をすべて残らず滅する為の手段となるならば喜んでこの身を差し出しましょう。命を賭して前線で戦う鬼殺隊士と何ら変わりはありませんよね」
確かに、隊士は命を賭して鬼と対峙している。
月奈の入隊理由は他の隊士達と変わらない。
杏寿郎はふぅ、と一息吐く。
ー月奈の目に誤魔化しの色はなさそうだな。
煉「そうだな。…本当に君は困った娘だな。芯の強いところは俺の母上にそっくりだ。そうは思いませんか父上?」
廊下の角から姿を現した槇寿郎に月奈は驚いた。