第6章 迷いと決意
煉「もしかすると、その傷も残るかもしれないな。俺がついていながら、みすみすと攻撃されるとは謝っても謝りきれん」
「頬の傷は不意打ちですし、胸の傷は自分の行動が故です。杏寿郎様が気に病む必要はありません。…喰われずに五体満足でいられるのは杏寿郎様が鬼を切ってくれたからではありませんか」
キョトンとして答える。
煉「しかし、月奈は女性だ。それに今から嫁ぐ年齢になっていくんだ。それなのに…」
「…この背中の傷ができた頃から一人で生きていく覚悟はできております。今日のこの傷で何かが変わることなんてありませんよ」
傷物の女を娶る男性など珍しい物だ。
ましてや、家族はおらず稀血である、普通の家に嫁ぐことが難しいことは重々承知していた。
煉「幼い頃の傷、と言ったな。…鬼か?」
「いいえ、これは鬼のせいではありません。山で遊んでいた時に足を滑らせて滑落したのです。その時に背中を大きく切ってしまいまして」
山の中で、滑落。下山が難しかったのならば処置としては焼いて塞ぐこともあり得る。
「鬼が来ることの方が怖かったので、その場で止血で焼くと父に言われても普通のこととして受け入れていましたよ。我ながら恐ろしい精神です」
腕を組んでうんうんと頷く。
それからニコリと微笑み、向かい合う杏寿郎の手に触れる。
「何度でもお伝えします。喰われていないだけでも幸せなのです、生きていることが幸せなのですよ。杏寿郎様」
その言葉に杏寿郎は「強いな君は」と呟いて微笑んだ。
その表情を見て、ホッとしたのか眠気が襲ってくる。
「そろそろ、お部屋でお休みになられてください。私もそろそろ休ませて頂きますね」
煉「…布団で寝なければ休まらんぞ」
「?ですから、杏寿郎様もお部屋に戻られてお布団でお休みくださいと…」
煉「俺ではない。君が、だ」
(まさか…布団で寝る気は無いことが分かっている?)
煉「その傷ならば布団が汚れても仕方のないことだ。気にする必要など無いだろう」
「…いえ、ですが気持ちの良いものではありませんし、血は落とすのになかなか苦労しますから」
ニコリと微笑まれ、月奈はギクリとする。
やはり、最初から布団で寝る気はなかったのだな!と言われ手を引かれ布団に連れていかれてしまった。