第6章 迷いと決意
煉「焼いた、というのは背中にあるその傷のことか」
「…子供のころのケガです。お見苦しいものをお見せして申し訳ありません」
衿を直して背中を隠す。肩越しに振り返った月奈は苦笑いしている。
「すみません、消毒がまだ終わっていなくて…」
煉「相当痛むようだな。うむ、力を抜きなさい」
手ぬぐいを持った右手に、杏寿郎の手が重ねられる。
自然と背中から抱きしめられる形になり、驚いた矢先に痛みが襲ってきた。
「ぐっ…!?むぐ…っうぅうう!!」
急な痛みに苦痛の声を上げるが、その声は口に当てられた手ぬぐいに吸い込まれていく。
ズキズキと消毒薬に反応する傷の痛みに、ほんの数秒の治療が何時間にも感じる。
煉「…なんとか止まったか。すまなかったな、驚いただろう」
荒い呼吸を繰り返しながら、月奈は少し恨めし気に杏寿郎を見つめている。手ぬぐいを口から外してやると、大きく息をついた。
「せめて…心の準備をさせてくださいよ…」
煉「それでは、いつまでも準備出来んだろう!」
(確かに。でもやり方が狡い…)
正論を言ってくることが今は憎らしい。ジトリと杏寿郎を見ると月奈はゆっくり姿勢を直した。新しい手ぬぐいを広げて傷に当てた上からサラシを巻き始める。
煉「手ぬぐいをおさえていろ、俺が巻いていこう」
出血を抑えるために、少しキツく巻かれたサラシはしっかりと体に馴染んでいた。
随分と手際がいい杏寿郎に驚いていると、任務中のケガは自分で処置することもあるからなと話してくれた。
「ありがとうございました。明日には出血が止まってくれればいいのですが」
浴衣の衿を直して、薬箱を片付けると杏寿郎に振り向いて微笑んだ。
いつものキッチリした隊服姿とは違い、着流し姿の杏寿郎は髪も下ろしているからか穏やかな印象の青年だ。
「応急手当も済みましたし、そろそろ寝ましょうか。…どうしました?」
じっと見つめてくる杏寿郎の目には少し哀れみが滲んでいるような気がした。
月奈は苦笑いを返すと、ポツリと杏寿郎は話した。