第6章 迷いと決意
千寿郎が言われた用品を取りに席を外すと、月奈の頬にひやりとした布を当てられた。
「ひゃっ!…あ、ありがとうございます」
煉「先に頬の傷を消毒しておこう。女の顔に傷を残したら、胡蝶に怒られそうだ」
「ふふふ、さすがの杏寿郎様もしのぶさんには勝てませんか?」
母上といい、胡蝶といい、勝てる気がしない。と苦笑いしながら、手慣れた様子で傷の手当てをしていく。
されるがままの月奈は、ガーゼで傷口を保護していた杏寿郎の手がふと止まったことに気付き杏寿郎を見る。
煉「…これはあの時の傷か?残ってしまっていたのか…」
「え?あぁ、額の傷ですか。うっすらと見える程度なので、前髪で普段は隠しています。隠さなくても誰も気付かないかと思いますが」
この程度は最早今更だと思っているので、ケロリと答える。
喰われていないだけ儲け物ですよ、と笑う月奈に、杏寿郎は稀血を生まれ持つ人間の生きる強さを垣間見た気がした。
千「月奈さん、このくらいで事足りますでしょうか?」
「わぁ!充分です!予備としても全てお借りしても大丈夫ですか?」
戻ってきた千寿郎の手にはサラシ3巻、手ぬぐい6枚が抱えられていた。これなら夜中に交換もできそうだ。
煉「さて、千寿郎も夜遅くまですまなかったな。月奈の部屋は準備出来ているか?」
千「あ、はい。兄上の2つ隣の部屋に準備してあります」
ありがとう、と千寿郎の頭を撫でて薬箱を持つ。
月奈は千寿郎から、用品を受け取って「助かります」と喜んでいる。
煉「月奈は俺が部屋まで案内する。千寿郎はゆっくり休みなさい」
「千寿郎さん、本当にありがとうございます。お休みなさい、また明日!」
二人並んで廊下を歩いていく姿を見送った千寿郎は、ひとつ欠伸をしてから自室に向かった。