第6章 迷いと決意
好きにするといい、と言って槇寿郎は立ち上がり部屋を出ていく。すれ違いざまに槇寿郎は月奈にしか聞こえない声でボソリと呟いていった。
ー鬼殺隊に入るのはやめておけ、よく考えろ。
月奈は慌てて振り向いたが、既に槇寿郎は部屋を出て行ってしまっていた。
鬼のいない世を願うのは一緒なのに、どうして私はダメなの…と唇を噛んでギュッと膝の上に置いた手を握る。
煉「千寿郎、月奈の傷の手当てをしたい。薬箱を持ってきて貰えるか?」
千「あ、ハイ。すぐお持ちします」
ハッと顔を上げると、千寿郎が立ち上がりパタパタと部屋を出て行った。杏寿郎は息をついて月奈を手招きした。
煉「そこは冷えるだろう、こちらへおいで」
「煉…杏寿郎様、父君にご無礼を働いてしまい、申し訳ありません。挨拶もせず、あのような状況になるとは考えておらず」
煉「あぁ、それは父上も謝っておられた。俺も千寿郎も後先考えずに飛び込んでしまい申し訳なかった。如何せん母上が亡くなってからはこのように男所帯が長くてな…」
「…母君は亡くなられていらっしゃったのですね、すみません」
お待たせしました、と千寿郎が薬箱を持って部屋に入ってきたので、話はそこで途切れる。
傍らに薬箱が置かれたので、手当てをしないとと思い胸元に入れていた手ぬぐいを抜き出す。
「あぁ…ごめんなさい、やっぱり血が止まらなかったですね、汚れてしまいました」
裂かれた時よりも出血が落ち着いてはいたものの、肩から胸元にかけて裂かれてしまったため少ないとは言い難い出血量だ。これでは浴衣も汚れてしまう。
「サラシはありますか?あと、もう少し手ぬぐいを頂けると助かります」
千「え?あ、ありますが…ご自身で巻かれるのですか?」
千寿郎は出血量に驚いたのか、少し顔が青くなってはいるものの、受け答えはしっかりとしている。
「治療は無理でも、圧迫くらいなら何とかできると思います。明日、蝶屋敷に行って治療してもらうまでの応急処置といったところでしょうか」
(焼いて塞ぐと血は止まるんだけど、それ言うと絶対怒られますね。特にしのぶさんに…)
あの静かに怒る笑顔を思い浮かべて、ゾクリと身を震わせる。