第5章 お館様
(この至近距離。私諸共切るしか手段はない…?…この腰に回された腕から抜けられればなんとかなりそうだけど…)
煉「少女から離れろ」
一瞬で鬼の背後に回り込んだ煉獄は、鬼の手を月奈の手から引き剥がしていた。鬼の首にはピタリと赤く燃える日輪刀が当てられている。
鬼「刃を薙ぎ払えば、この稀血の首も飛ぶわ。そんなことできないのでしょう?」
「困りましたね、私は人間ですから鬼殺隊が首を斬ることはできません」
パサリとハンカチを足元に落とし、鬼に向き直った月奈は囁いた。左手は腰に回った鬼の腕を撫でる。
「そうでしょう、煉獄様…」
鬼「…ぐぅっ!!な…っ!!」
次の瞬間、鬼の首に何かが刺された。
驚きで緩んだ鬼の腕から月奈が逃れたところで、煉獄の日輪刀が鬼の首を刎ねた。
煉「月奈!!大丈夫か!」
「え!?…あ、ハイ!煉獄様…わぁっ!!?」
突然、名前で呼ばれたことにも驚いたが、駆け寄った煉獄の行動にさらに驚きの声を上げる。
「な!何をしてるんですか煉獄様!!!ちょ…」
煉「ケガをしているではないか!着物に血が滲んでいるぞ、見せてみろ!」
抵抗する月奈とケガを心配する煉獄。
(本気で心配をしてくださっているのは分かるけれど…胸元はやめてぇぇ!)
先ほど、鬼の腕から逃げる時に爪が胸元を裂いていたのだ。
せっかく買って貰った着物が血で汚れるのは悲しいが、止血のために抑えている。その手を剥がして患部を確認しようとしている煉獄の力に敵うはずもないが、月奈は必死に抵抗する。
「煉獄様!!この往来で患部を確認するのは、私に醜態をさらせと言っているのと同じですよ!!勘弁してください!」
ピタリと煉獄の動きが止まり、月奈はホッと息をつく。
(危ない危ない。それにしても…血が出ている以上は早く帰らなければ…また鬼が出ても困るなぁ)