第5章 お館様
「通り雨だったようですね、煉獄様これを使ってください」
月奈は、雨に濡れた煉獄にハンカチを差し出すが、
煉「大丈夫だ!問題ない!」
といつもの笑顔で言われ、地面に下ろされる。
ですが…と見上げると、雨粒が細かく降ってきて驚いた。
「きゃっ!…煉獄様!!?」
煉「む!すまん。かかってしまったか…拭くよりもこれが手っ取り早くてな」
頭を振って水滴を飛ばした煉獄を、月奈は驚いて見返す。まるで犬のようだ、と思ったら笑いが出てしまった。
「ふふ…っ煉獄様…まるで犬のようなことを…」
煉「よもや!犬か!…むぅ、確かにそうかもしれんな」
眉根を寄せて反省せねば、と呟く煉獄を見て月奈は自然と微笑んでいた。
頭から被っていた羽織を外すと、ふわりと風が吹いて頬を撫でていく。
「…え?」
パッと月奈の右頬が裂け赤い血が飛んだ。
ぬるりと生ぬるい液体が頬を伝う。
鬼「まさか、こんなところで稀血に遭遇するとは、私も運がいい」
ー炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天ー
鮮やかなオレンジの炎が、月奈の脇を通り過ぎた後、足元にボトリと腕が落ちてきた。
(鬼だ!)
稀血は鬼を呼ぶ。ハッと咄嗟に持っているハンカチで頬を押さえ止血をしながら鬼の声がした方向を見ると、煉獄の背中が見えた。
鬼「鬼狩りが一緒にいるなんて…これは運が悪いわね」
ーねぇ、お嬢さん。そうは思わない?
煉獄が鬼の首を刎ねた。
それなのに、何故か月奈の耳元で囁いた声は同じ響きだった。
鬼「やだわ、私の半身が切られちゃった。作り出すのは結構大変なのに…。まぁいいわ、稀血があれば問題無いもの」
クスクスと笑う女鬼は、美しい顔で背後から覗き込んできた。ハンカチを押さえる月奈の手に、自分の手を重ねて煉獄を見て笑っているのが視界の端で見える。