第5章 お館様
ポツリ、と煉獄の頬に雨粒が当たる。
空を見上げると黒い雲が厚くかかっていた。
ー気付かなかった!しまった。
「…日が、翳ってしまいましたね。煉獄様、この辺は鬼が出ますか?」
煉「…うむ。たとえ街が近くとも鬼は出る」
煉獄は答えながらも、周囲の状況に注意する。
とにかく安全な場所に入らなければ…と付近の地理を思い出す。
月奈を抱えて走れば、蝶屋敷に1時間もかからず到着できるだろう。ただ雨に濡れた状態で風に当たるのはまずい、鍛えている人間ならば問題はないが…
煉「水橋少女、これを被っておけ」
そう言うと、掴んでいた腕を離し月奈に自身の羽織をふわりとかける。
周囲を見回していた月奈の視線が煉獄に向いた瞬間、煉獄の差し出した腕に鴉が止まった。
何かを呟き鴉が飛び立つのを確認した煉獄と視線が合い、月奈は羽織をギュッと掴む。
「ありがとうございます。…煉獄様がお風邪を召されないように早くどこか雨宿りをしなければいけませんね」
煉「俺は問題ない!だが水橋少女はそうはいかんだろう。少し走るぞ、我慢してくれ」
そう言って月奈を横抱きにし、走り出した。
煉「蝶屋敷は些か離れている。俺の家のほうが近い、そちらに向かう」
「え?…煉獄様の家…ですか!?」
煉「案ずるな。すでに家には鴉を飛ばした、後程胡蝶にも飛ばす」
「いえ、そうではなくて!急に御厄介になるなんて申し訳が…」
これが最善策だ!と言い切った煉獄の腕からは、逃れられるはずもなく、月奈は申し訳なさで項垂れるしかなかった。
20分程走っただろうか、木が生い茂った道から家が並ぶ道に出ることができた。
雨は一時的なものだったのか、今はもう止んでいた。
しかし、雲がかかったまま日が暮れ始めているので周囲は既に暗くなってきている。